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漆塗りの歴史

塗料の歴史

50年くらい前までは、あまに油・ボイル油・油ワニスなどで出来る油性塗料が主流でした。専門的なことは別として、ヨーロッパのニスはある虫のフンから採れるものを材料にしていましたが、日本では酒精ニス(セラックニス)が主流でした。ヨーロッパでは家具や楽器類に使用され、特にバイオリンやチェロは音が良質になると聞いています。日本、中国、東南アジアでは、何といっても漆文化です。天然高級フェノールと云って、酵素による常温乾燥型の塗料です。硬質で肉持ち(塗料の厚み)が良く、艶が非常に良いのが特徴です。欠点は乾燥が遅いことと、皮膚炎症(カブレ)を起しやすいことです。一度カブレたら免疫ができて二度目はカブレないと云われていますが、皮膚の弱い人は要注意です。何故カブレるかといいますと、漆の酵素は貪欲で何でも食べるから皮膚も食するときにカブレを起すと云われています。カブレた時の治療法は、サワガニの汁が良いと一般的に云われていますが、医学的には女性ホルモンが一番良いと云うことです。漆は生き物、と云われているのはそういう理由からです。何百年も前に塗られた漆でも酵素は生き続けるので色も変化していきます。カニには弱いようですが・・・。

第二次世界大戦が終ると中国との国交が無くなり、中国からの漆が入ってこなくなりました。日本の漆の方が良質ですが、沢山採れませんので漆器業界や建具業界は大変困りました。そこで登場したのがカシュー樹脂塗料です。清水谷一郎(長野県)先生が、戦前からカシュー樹脂を研究していて、漆の主成分とカシュー樹脂が類似した化学構造を持っていることに着目し、昭和23年に油性漆塗料として特許を取得しました。日本の伝統美を代表する漆と全く遜色のないカシュー樹脂塗料は、戦後の日本の漆器業界や建具業界、あらゆる工芸品sの業界を救ったと云えます。カシューの木はインドが原産国で、ブラジルやアフリカへ防風林として植林されました。皆様ご存知のカシューナッツの殻にあるカシューナットシエル液から分離された成分で、漆は酵素による乾燥ですがカシュー塗料は非酵素乾燥ですので、特異体質の人以外でしたらカブレの心配はないと思います。

カシューツリー漆は乾燥するのに湿気を必要としますが、カシュー塗料は普通の常温で乾燥しますので、当時は漆器や工芸品だけでなくピアノなどの楽器類、竹釣り竿、仏壇、鉄道、襖縁など用途を広げていきました。肉厚があり、しっとり感、深み感があり、美を基調とする工芸品には最高の塗料といえるでしょう。また、天然フェノール系のカシュー樹脂は耐熱性、耐薬品性に優れ硬質ですので、自動車・オートバイのブレーキやクラッチなどのライニング材として世界中で使用されています。しかし、40年前頃より石油化学による合成樹脂塗料の開発と、食品衛生法の施行で漆器類の食器はポリウレタン樹脂塗料となり、漆は歴史的、伝統工芸的な理由で使用を許可されました。石油化学から生まれた合成樹脂は、繊維、プラスチック、塗料、接着剤、印刷インク等、全ての分野で使用されています。塗料の分野でも企業は生産性を向上させるため、乾燥の遅い漆やカシュー塗料よりも合成樹脂塗料の開発に力を入れました。

ポリエステル樹脂塗料は、塗料膜が厚く、硬質で乾燥が速いため、何度も塗り重ねる従来の塗料よりも一度で済むので、工程短縮になりました。ポリエステル樹脂は、プラスチックの分野でもガラス繊維を複合することになり、F.R.P(強化プラスチック)が生まれ、更に炭素性繊維(カーボングラスファイバー)を複合することにより、軽量で強靭sなプラスチックが生まれました。

小型船舶、スポーツ用品、釣竿、レース用の自動車、オートバイ、そしてステルス戦闘機や旅客機に至るまで使用されています。F.R.Pの開発は日本発で、漆器などの工程で木材(素材)のワレを防ぐために、漆塗りの下地の工程で“布着せ”といって、寒冷沙(布)をはります。それを漆で固めていくと木材のワレを防ぎ、漆工芸品が数百年の年月を越えても美しく輝いているのです。まさに日本人の知恵だと思います。

ポリウレタン樹脂塗料は、ポリイソシアネート樹脂とポリエステル樹脂を反応させて塗膜をつくる塗料で、やや厚塗りが可能で付着性、耐薬品性、硬質でタフネスな塗料です。変色しやすい欠点がありますが、室内で使用する家具や漆器類では最も普及している塗料です。しかも食品衛生法にパスしていますので、会津塗りなどの椀物にも使用されています。

硬化剤でもあるポリイソシアネート樹脂が変色やチョーキング(粉をふいたような劣化)の原因ですので、現在では耐候性や変色のしないアクリル樹脂を変性したアクリルウレタン塗料が外装品(自動車、オートバイなど)に使用されています。他にも沢山の合成樹脂塗料がありますが、今回は木工の塗装のテーマですので省きます。最後に、もう一つ忘れてはならないのがラッカーです。これも日本人が発明した塗料で、現在その会社はありませんが、ニトロセルローズを原料とした速乾性で耐候性の良い塗料ですが、欠点は肉持(厚み)と光沢がやや劣ります。最近ではアセチルブルセルローズアクリル樹脂、アクリルラッカーが主流でホームセンターなどのスプレー缶型塗料に良く見受けられポピュラーな塗料です。

木材の歴史

西欧は石の文化、中国は土の文化、日本は木の文化と云われています。古代の西欧は狩猟が主で、木は燃料として使われ、また戦火により沢山の自然林が失われました。また中国でも2000年以上も前に、秦始皇帝が万里の長城を築く政策で、焼レンガを製造するためその燃料として自然林が破壊されました。自然林は数千年の歳月をかけて雑木が朽ちて肥料となり、それらを繰り返しながら硬い良質の木が育つと云われています。一度失うと、元の自然林に戻るには相当の年数が必要となります。その点、日本は島国であり、山間部が多いため自然林が守られました。繊細な日本人は、植林する技術をあみだし、炭を考案して効率の良い燃料を使用する事により、多くの自然林が残ったのです。日本列島でもその地域により木の種類と質は違ってきますが、その地域の木を生かした家具や漆工芸品が発達してきました。日本列島の中でも暖かい地方では陶器が発展しましたが、木の持つぬくもり、肌触りから漆器は寒い地方で発展したようです。また寒い地方の木材は、木の成長が遅く木目(年輪)がつんでいて硬く、粘りがあり加工後の狂いが少ないと云われています。北海道のナラ材(オーク)は、北欧のホワイトオーク、北米のレッドオークよりも良質とされていますが、明治維新後の国家政策で炭鉱の開発により、坑道の坑木に使用されたり、鉄道の枕木として伐採されました。現在は非常に少ない数になってしまいました。今までは、建材用、家具材の多くは海外からの輸入材に頼っています